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【取材レポ】伝統と自由の寄り添い〜珠玉の切子硝子〜

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今回お邪魔したのは
学問の神様「菅原道真」が祀られている
亀戸天神社があることで有名な亀戸駅にある
「山田硝子加工所」
実は今回初めて亀戸駅に降り立ったのだが
ほっこりとした下町の風景を勝手に想像していただけに
駅前の都会を感じる喧噪にはやや戸惑いを感じた
ここでもスカイツリーがどーんと空を牛耳っている
人工的な巨大な鉄の固まりは
逃げ場を失った
昭和と平成の時流のせめぎ合いが
にょきにょきと上にのびて
偶然にして形をなした
実体がつかめないオブジェのようで
いつも摩訶不思議な気持ちになる
駅から10分程度歩き住宅街をぬけて
緑まぶしい公園の脇に今日の舞台はあった

工房の目の前には
日本の高度経済成長期を支えた象徴のような
今ではあまりみかけない巨大集合団地
そこに隣接する公園は
取材当日がお盆休みということもあってか
流行りのポケモンGOをやりにいってしまったのか
子供たちが遊んでいる姿はなく
しんっとした印象だった
早朝や夜には涼しさもやや感じられるように
なってきた今日この頃
夏の主役の蝉たちは
最後の主張と言わんばかりに
力一杯声高らかに鳴いているように感じられた

「ごめんくださ〜い」
っと入口から網戸越しに呼びかけると
奥で作業をしていた大柄な男性が
むくっと立ち上がりこちらに歩みよってきた
その威圧感のある佇まいは
さながらグリズリー
今回の主役である
江戸切子職人「山田真照さん」だ

年齢は僕が勝手にイメージをしている職人に比べると
やや若い世代の職人だ
大柄で真っ黒に日に焼けた姿は
まるで海の男っといった感じで
繊細な細工仕事をするというよりは
銛で魚をついている海人のような野性味に溢れる人物だ
通していただいた工房内は
小さな音でかすかにラジオが流れていてどこか懐かしい
見たことのない機械や
使い古された木箱などが雑然とならんでいて
工房の雰囲気はどこかふんわりと
そしてのんびりとしている
周囲に目をやると
所々にみえる江戸切子の赤や青のぬけるような強い色彩が
工房のところどころにちりばめられており
キラキラしたその様子は
まるでそこに小さな花々が咲いているようで
さながら芸術家のアトリエっという印象を僕は受けた

【軽やかで自由な伝統工芸品】
まずは今回取材をさせていただいた
江戸切子の補足を簡単にすると
我が国での制作は天保5年(1834年)に
江戸大伝馬町のビードロ屋加賀屋九兵衛が
金剛砂を用いて硝子の表面に彫刻を施したものが初めとされている
その後に明治14年には英国人エマニエル・ホープマン氏を
指導者として招き十数名の日本人がその指事を受け
現代に伝わる江戸切子の伝統的硝子工芸技法が確立され
平成14年には国の伝統工芸品に指定され現在に至る
日本人の誰もが一度はどこかで目にしたことのある
比較的私達の生活にも馴染みの深い伝統工芸品ではないだろうか
お話をうかがってまず興味深かったことは
江戸切子業界は
近年、比較的若い人達の参入も多いのだと言う
その背景にあるのは上記にある通り
伝統工芸品としての歴史自体は浅い為
外部への門戸は比較的に開かれている風土なのだそうだ
制作においても
「この柄はここにいれよ」
「この色は必ず使用すべし」
などのルールも厳格には決まってはおらず
山田さん曰く「自由にすべし!」
というのが根底にあるマインドなのだとか
素人の自分が固定概念として持っていた
職人の世界特有の堅苦しさはなく
なんだか向き合い方として
少し肩の荷が降りた感覚を得た
「芸大出身者は構図の取り方などはやっぱり上手いよね〜
俺はそんな勉強もしていないからなかなか骨がおれる
うらやましいよ
でも彫りだす技じゃ負けないよ!(笑)」
っと若者の参入にも排他的な感じはほとんどない
良いものは良いとちゃんと褒めて取り入れる
そんな業界全体の自由さと清々しさを
山田さんの言葉から感じられた

【これからは攻める職人!そこに見出すよろこび】
そんな江戸切子職人の山田さんの工房では
以前は大手メーカーなどからの委託仕事だけでも
おおかた生計を立てられる仕事量があったが
最近は大口の取引きも減少傾向にあり
今はご自身で販路開拓もされているそうだ
現在はスカイツリー内にあるソラマチにも出店をされており
定期的に実演販売なども精力的におこなっているとのこと
それはモノ作りの職人において
大きな負担になっているのではないかと
直感的に感じざるをえなかったのだが
そこは底抜けにポジティブマインドの山田さん
「正直大変だけどお客様の直接の声も聞けるから嬉しいよ
作ったモノを褒められると嬉しいじゃん
今まではそんな体験はなかったからね
親父の時代は人前に出て
自ら売るなんてことは絶対になかったな〜」
固定概念にとらわれず
今の時代をしなやかに生きる職人の生き方が
ここでもうかがえた
「でも俺は口ベタだから実は接客は苦手で正直こまるよ」
なんて照れながらご本人はお話をされていたが
案外楽しんでいるご様子で何だかこちらまで嬉しくなった

【色や形のトレジャーハント】
またお話を進めて行く上で驚いたことは
制作するにあたり
素材となるガラスの材料選定や形選定の大変さだ
委託仕事でメーカーなどの指定がない限りは
実は一つ一つご自身で探しあてなくてはならない
素人である私はてっきり
「こんな感じでつくりたいのでこんな色で形は…」
っと昔からのお付き合いのある業者さんなどから
仕入れをおこなっているのかと思いきや
今はなかなか良質なガラス屋さんも少なくなり
また小ロットでの発注も難しいことから
既存にある限られた選択肢の中から選び
そこから逆に発想を膨らませて
商品に仕上げて行くことも多々あるのだとか
モノづくりに専念する上ではなかなか苦労の多い環境だ
ここでのお話で興味深かったことは
実はそんな素材選定において
最近は小さな工房を構えている若手の吹きガラス職人などから
素材を卸してもらうこともあるということだ
世代の垣根を越えた良い循環が
実は見えていない水面下では少しづつではあるが
進んでいる事実があり純粋に嬉しかった
そんなプロとプロの仕事を適切にマッチングができ
餅は餅屋で最大限に力を発揮できる環境があれば
もっと産業は発展できるのでは
っとふと思った一幕だった

【アイディアは?トイレの神様?】
江戸切子の出来の善し悪しを山田さんに聞いてみると
彫り出す技は勿論当然のことだが
実は構図の取り方や柄選択も重要なポイントになるのだとか
山田さんもそこには日夜頭を悩ませているご様子
季節的に…縁起物的には…この組み合わせは…など
組み合わせのルールがないだけにまさに無限だ
それはさながら曲作りに頭を悩ませているミュージシャンや
〆切りに追われている作家のよう
「アイディアはいつどこから生まれるのですか?」
純粋に気になったので聞いてみた
きっといつも頭の片隅で気にかけていて
常に臨戦態勢なのかと思いきや案外そんなことはなく
ふっっと「綺麗だぁ〜」っと心が動かされたモノを
何の気なしに写真などに撮りためて形にしていくのだとか
それは時として百貨店のトイレの壁紙だったこともあるそうだ
時には肩の力を抜いて
オンモードとオフモードの境目にある
自然で無垢な感覚で本質を気付ける力は大切だ
そんな日常でみつけた発見が職人の技を通して形をかえて
私達の日常の生活にもどっていく
だからきっとあまり気取り過ぎることもなく
生活にしっくり馴染むのかもしれないなぁと
妙に納得をした

【遊ぶ⇔営む 〜硝子職人としての一歩〜】
そんな山田さんが職人道に足を踏み入れたきっかけは
幼少の頃に創業者である先代(祖父)が作業している作業場で
よく見よう見まねに
グラインダー(ガラスをけずる機械)で
ガラス彫りをして遊んでいたことがきっかけなのだとか
そのときは職人になりたいとは毛頭考えておらず
でも「面白いな!」っと純粋に思ったとのこと
やはり良いものをつくる原点はいつもここにあるのだろう
そしてそのバトンはどうやら
今は山田さんの息子さんである4代目にもしっかりと
つながれているようだ
中学生になる息子さんも
たまに工房に来てはいつかの山田少年のように
グラインダーをつかって見よう見まねでいじって遊んで行くのだとか
そして幸いにも今は将来は後を継ぎたいという
気持ちをもってくれているとのこと
「息子さんに仕事をついで欲しいですか?」
「ま〜好きならやればいい」
「ほんとうに?」
「うん」
「やらないっていわれたら?」
「う〜ん…そだなぁ…」
屈強な男がちょっとなよなよとした感じが微笑ましかった
その表情がたまらなく職人であり父であって深く感動した
好きになれることを仕事にする
それ以上に人生を充実させることはない
自分が生涯をかけて歩んでいる軌跡に
何かしら次の世代が感じていてくれるものがある
胸をはって誇りをもてる仕事をしていたい
っと自分自身にも置き換えて考えさせられた

【半分職人半分芸術家】
「山田さんは職人なのか?芸術家なのか?」
っという疑問が取材の途中に頭に浮かんできた
僕自身が取材を通して感じたことは
どちらの主張が強いわけでもなく自然と
そこには2人の人物が共存しているようだった
でも間違いなく良いモノへの
飽くなき追求心がそこにはある
現在山田さんは伝統工芸の可能性をさらに広げるべく
江戸指物の職人さんとのコラボ制作に取り組んでいるなど
制作意欲はとても旺盛
第一線で活躍する職人同士での仕事を通して
刺激をし合いながら成長を日々続けている
実は撮影でお邪魔させていただいた際はまだ未完成の為
写真は撮らせてはいただけなかったが
現在取りかかっている新作を
僕たちにこっそりとみせてくれた
漆黒のグラスにアウトラインのみが書かれている一作
まだ形はなしておらずまさに試行錯誤の段階
とても印象的だったのは
「何とかこれを形にしたいんだよね〜」
っと目をキラキラさせながら
少年のようにはにかむ姿の山田さんを見ると
とてもワクワクしてしまう自分がいた
作品を愛し仕事を愛することの意味を言葉ではなく見姿で
教えていただいた瞬間だった

【静寂の世界】
お話をおうかがいしていくうちに
どうしても実際の技をみてみたくなり
無理言って実演をお願いさせていただくと快く快諾してくださった
山田さんがスイッチを入れるとおもむろに動き出す機械
硝子を削りだす時の音は
耳をつんざくような大きな音がすると思いきや
実はそんなに大きな音ではないことに驚いた
シュ〜キキッツ
シャ〜キキッツ
シュ〜キキッ
むしろ静寂のなかに制作の現場はあった
削りだしている時に一切試し見はしない
山田さん曰く
「これはもうリズムでやってるからわかるんだよ」
確かに何か軽快な音楽を聴いているような感覚を覚えた
そしてその音は凛として緊張感のある直線へ
さらには美しい絵細工へと瞬く間に形をかえていく
作業をしている時の山田さんの表情は
9回満塁2アウト1打出れば逆転のチャンスに
バッターボックスに立つ名バッターのよう
大きな背中からは強いオーラを感じ
とても途中で話しかけられない雰囲気
素人と職人の分岐点がそこにあった
制作に打ち込んでいる姿が職人はやはり一番かっこいい
しびれた!!



【天下無双の切子職人】
山田さんの大きてごつい手から繰り出されている技法には
実は二つの技法が使われている
「江戸切子…直線的な線で削り出す表現技法」
「花切子…曲線などを用いて絵を描くように削り出す表現技法」
もともと山田さんの工房は花切子を得意とする工房
実はどちらか一方の技に長けた職人はいるものの
この二つの技法を共につかいこなす職人は少ないという
二つの技法が織り交ぜる技法は
まさしく切子の表現の幅をひろげる
それを聞くと今もまさに技は進化の過程なのだと改めて関心をした



【こだわりをあえてもたないことがこだわり】
作り手の気持ちをもっと知りたくて
つくっている時に
これで何を飲んで欲しいなどあるんですか?っと
質問をしてみると
即答で「なし!」とのこと
飲みたければ牛乳だって飲んでもいいんだよ
その人がそうしたいようにすることが大事
そして大切にしてくれればOK
っと茶目っ気たっぷりにお話してくださった
どうしても伝統工芸品と聞くと
とても崇高なモノのように捉えがちだが
肩肘はらずでいいんだ
そのモノに愛着をもって向き合う気持ちさえあれば
徐々にその使用者の生活に馴染んで行き一部と成す
自由奔放な性格の職人から産まれる作品はどれも軽やかだ
「行雲流水」
自由で涼やかな風を感じさせてくれる
職人が彫り出す珠玉の江戸切子
ぜひ特別な日にも何でもない日常の日も
想いを馳せながら使用してみてください
改めて日本の良さを感じられる豊かな体験ができることでしょう

選択者:Rickey
詳細はこちら


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