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【取材レポ】伝統を現代に繋ぐ〜技の指物〜

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今回お邪魔したのは
ドラマや芝居で御馴染みの
遠山の金さんこと
遠山金四郎景元の屋敷跡も残る
東京都墨田区は菊川駅にある
「指物益田」
季節はいよいよ本格的に秋に突入し
木々も色づきはじめ
街並がとても綺麗な季節を迎えている
取材前に時間が少し余ってしまった為
ふらっと近くを散策した際に見つけた小学校では
元気に子供たちが体育の授業をしていた
自分の母校ではないものの
校庭で子供達の躍動する姿をみると
自分の記憶とリンクして懐かしい気持ちになる
裏路地に入るとそこは町工場がずらりと立ち並ぶ
まさに職人の町
と言った雰囲気のエリアだ
そんな一角に今回の舞台はありました
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工房のすぐ近くには
天和3年(1682)に建立された
榎稲荷神社という小さな神社があり
その中には立派な地蔵尊が安置されていた
実は取材先一帯は
昭和20年3月10日に
大空襲をうけ焼け野原となった歴史を持つ
その後生存者の間から
犠牲者の冥福と恒久平和を願い地蔵尊建立の運動が起こる
奇跡的に菊川小学校で難を逃れ
船橋市に疎開中であった石黒善次氏の浄財により
この地に設置をされたそうだ
通りがけに手をあわせて出勤をしていった
OL風の女性の姿がとても印象的で
町の雰囲気を彼女は体現してくれていたかのようだった
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「ごめんくださ〜い」
と工房のなかに呼びかけると
やたらとハンサムな男性がそこにたっていた
その佇まいは職人というよりも
どこかデザイナー風
今回の主役である江戸指物師「益田大祐さん」だ
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物腰はやわらかく
どこかの営業マンと言われてもわからない位の
軽快なトークで挨拶を交わし
我々を工房の中に迎え入れてくれた
工房内は奥に一段高くなっている作業場がある
その周辺には整然と道具が並べられており
職人の真面目な人柄が伺えた
入り口付近には
きっとこれから製作されるのであろう
何やら大きくて立派な木の板材が並べられており
ワクワクした気分になる
作業場というよりは
男の隠れ家さながらガレージのような雰囲気だ

【歴史と共に生きる伝統工芸】
まずは今回取材をさせていただいた
江戸指物の補足を簡単にすると
釘を使わず木と木を組み合わせて作られた
家具や調度品をさす
京都での歴史が長く
その時代は平安時代にもさかのぼり
当時は大工職の手によってつくられていたそうで
専門の指物師が生まれたのは室町時代以降
武家生活の調度品や茶の湯の発達と共に確立されていく
京都の指物は朝廷や公家用の
「京指物」として
江戸の指物は武家用や商人用や江戸歌舞伎役者用の
「江戸指物」として
時代と共に進化を遂げながら今に至る
『桑(くわ)』『欅(けやき)』『桐(きり)』などの
木目の美しい材料を生かし
外から見えないところに技術を駆使している
江戸指物は分業ではなく
一人の職人が最後まで完成させることも大きな特徴だ
お話を伺っていて興味深かったことは
現代社会では一般家庭における
住環境やライフスタイルが
以前とは大きく変貌してしまった為
簞笥などの需要が急激に落ち込んでしまい
今は馴染みのお客様からの注文が中心で
製作のほとんどが受注生産であるそうだ
確かな技も人々の生活が変化をすると
時代を生き抜く事は決して容易ではなく
危機的な面が顔をだす
そうして生活の中で目に触れたり
良さがわかる所有者が語り部となって
話題に挙げなければ
そこでバトンは落ちてしまうのだ
益田さんがその話をしてくださった時の
残念そうな表情が忘れられない

【Jazz? Whiskey?Who is 益田さん?】
益田さんは職人の世界では
少々変わった経歴の持ち主
最初から指物職人の道に入られたのではなく
前職はとある家具制作会社に勤務
製作はMacを用いてお洒落にこなし
夜は青山のBarにも時より出入りもしていたそうな
今も仕事の後の至福の時間は
Jazzを聞きながら一杯やる時だというから驚きだ
誰がその趣味を聞いて指物師だと思うだろうか 笑
だが話を聞くにつれてそこに益田さんの
赤裸裸な人間像がみえてくる
時には音楽を聴きにライブ会場に出向き
あえてメジャーなミュージシャンの音楽を聞くのでなく
ちょっとギークな路線を攻める
ウイスキーは今はアイラ系がお気に入りとのこと
そんなちょっとはみ出た所に自分の身を置く事で
心に刺激を与えつつリフレッシュをし
色々な体験を通して感性を磨き
新たな発想で製作に向き合う
きっと真面目に遊ぶことも
良い仕事につながる大事な要素で
そんな益田さんだからこそ
粋な江戸職人のなかでも
個性を失う事なく
活躍をされているのではないか
と妙に納得した一幕だった

【職人道への入り口 〜きっかけは突然に〜】
そんな以前は家具製作会社での
仕事をしていたという益田さんだが
職人の世界に飛び込んだきっかけは
時はバブル崩壊に重なるタイミング
益田さんの会社も未曾有の不況のあおりをうけ
その時期に今後の人生の身の振り方を悩んだのだとか
善しも悪しもあるがメーカーに所属していては
どうしても自分でできる
デザインの範囲がブランドの範疇を
超えられないことへの葛藤もあり
どうせやるなら生産できる量は減ってしまうが
1から10まで自分が納得したものを
つくることのできる環境に身をおきたい
と漠然と考えていたのだとか
そんな中たまたま目にしたのが江戸指物
「金釘もなければ継ぎ目もない
どうやってつくっているかわからない??」
というのが益田さんの第一印象で
たちまち好奇心をくすぐられたのだという
好奇心はおさえることはできず
今の親方の元への弟子入りを即座に懇願したのだとか
一度は断られるものの
なんとすぐに会社に辞表届をだしてもう一度トライ!
すると…
「やめちまったんだったらしょうがないだろう
やってみるか?」
とまさに職人肌の親方が弟子入りを認めてくれ
晴れて職人の道に入られた
その当時の好奇心の源泉を聞いてみると
「いや〜ちょっと新しい言語でも覚えてみようかな
って感じで本当に好奇心そのままだったよね」
と独特な表現で過去を振り返ってくださった
何かの本で読んだが
成功の条件は無知であるとは良く言ったもので
あまり道筋を立てすぎてしまうと不思議と人は不安になる
そんなことより興味があれば飛び込む勇気を
大事にする大切さを教えていただいた気がした
弟子入り当初は
土日はラーメン屋のバイトをしながら暮らす日々
決して裕福ではなかったとは思うが
その話をしていた時の
益田さんの顔はまさに青春ど真ん中の少年の目で
とてもみずみずしさを感じた

【伝統芸能オールでの総力戦!】
時代の移り変わりもあり
なかなか生業として生計を立てていくことが
難しさを増す指物業界
現在の販路をうかがってみると
在籍されている墨田区伝統工芸保存会のつながりで
スカイツリーの中にあるソラマチで実演販売を行ったり
セレクトショップとの商品開発など
様々な取り組みをまさに手探り状態でおこなっている
だが商品自体が比較的高価なものが多く
正式発注に結びつくことは非常に少ないという
地道な商いの積み重ねこそが唯一の勝ち筋だ
ここでも製作にのみ没頭することが難しいという
職人が置かれている厳しい環境に愕然とさせられた
そんな厳しい環境の中
業界ならではの粋な販路があることをうかがった
益田さんの御得意先でもあった
歌舞伎役者で俳優としても御馴染みの
故 中村勘三郎丈の粋な計らいで
平成中村座に帯同をして
出店(でみせ)として販売を行うこともあるのだとか
舞台のエピローグとして
訪れた観客達は出店で
日本の文化に触れてから舞台に流れる
伝統芸能である歌舞伎とコラボをすることで
より舞台の世界観を感じてもらえればとの
粋な演出で影の演者として舞台に花を添える
まさに伝統芸能オールとして闘う
相乗効果を生み出す素晴らしい取り組みだ

【道具は宝】
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作業に使う道具達は作業場から
手を伸ばせばすぐに届く位置に並べられている
鉋(かんな)やのこぎりなどの多種様々な道具達
その合理的で効率的な作業スペースは
まるでジャンボジェット機のコクピットのよう
環境を整えることは仕事の質を
左右する大事な行程であることを改めて痛感した
いったい何種類の道具があるのかを聞いてみると
ざっと200種類とのこと!!
素人目には全く同じに見えるものも
職人の技を体現するには
一つ一つの道具に意味があるのだろう
道具のお話を聞いていて印象的だったことは
高価なモノ=良いものではなく
月日を重ね手に馴染んできて
初めて生きた道具となるのだそうだ
常に鉋(かんな)の歯は微調整などを
欠かさず自ら行い
常に戦力化をしておくことが大切とのこと
なんでも購入したての時は
木に水分が若干残っており
歯がミリ単位でずれを起こしてしまう為
あえて購入後2年間使わずに乾燥をさせてから
時期を見定め使用を始めることもあるのだとか
まさに熟練の職人の感覚である
益田さん曰く
「バッターボックスに入るのを
今か今かと待っているヤツがいるんですよ」
と相棒の道具達を紹介してくれた
良い商品ができあがる上では
そのプロセスも一流でなくてはならないことを
まさに見姿で教えられた一幕だった
しかし聞くところによると
実は鉋(かんな)等の道具の作り手も
今は大分減ってしまい
欲しくても手に入りにくい現実があるのだそうだ
もし仮に道具がなくなったら
良い商品も良い伝統も衰退していってしまう
改めて業界の抱える課題を突き付けられた
実際に特注にあたる小さな鉋(かんな)は
良い作り手が見つからず
益田さん自ら作ったものもあるそうだ
何とかこの負のスパイラルを解消する
策を考えて行きたいものだ
と個人的に強く考えさせられた

【お化粧直しにきた『簞笥婦人』】
取材をさせていただいた際に
作業スペースにひときわ風格のある
立派な簞笥がおいてあった
修理の依頼を受けた品でまさに作業の真っ最中
その修理の依頼者は古くから墨田界隈に住まわれている方で
お正月に向けて修理をお願いしてきたのだとか
ここで興味深いお話を聞いたのだが
その風格のある簞笥は
実は空襲の際に一度この地を離れた後
時を経てまた舞い戻ってここに現存するという
前述したように取材先一帯はひどい空襲があり
全て焼け野原となってしまった為
ほとんどその当時の家財道具が残っているケースは稀で
その簞笥もきっと荷物として
一時的に別の地に持ち出されたのではないかとのこと
まさに歴史が刻まれたその簞笥を改めて見ると
きっと依頼者の様々な思い出が詰まっているはずで
すこし感慨深い気持ちになる
その風貌は独特の使用感があり木のぬくもりが感じられた
戸についている金具一つをとってみても
現代ではあまり見かけないデザインで
華美な装飾ではないものの
洗練されていて非常に洒落ている
そんな昔の簞笥をしっかりと修理を施せる
腕の良い職人の数は年々減少し続けており
今回巡り巡って益田さんの元に依頼がきたのだとか
修理中のその簞笥からはどこか
僕には嬉々としているような様子が感じられ
まるでお化粧直しをしてお洒落を楽しむ
気品ある婦人のように映った
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【素材を探して津々浦々】
前回の取材先であった山田さんも抱えていた
課題でもあったが
益田さんも苦労をされていることの一つに
材料の調達があるという
昔は商社機能のある材木商が各地にいて
材料が手に入りやすかったが
近年の需要の落ち込みによって
廃業をする会社が後をたたず
良質な材料を手に入れる事は一苦労だと言う
急な発注がきた際には頭を悩ます事も
しばしばあるのだとか
それ故に職人側はある程度
材料の在庫を確保しておかなくてはならなく
結果として経営を圧迫する
益田さんの工房内にも立派な材料が
補完をされていたのもその為だったのだ
最近でも中村橋之助氏の
八代目中村芝翫襲名の際に
受注を受けた鏡台製作においても
材料の調達には
製作もさることながら苦労をされたのだとか
その材料のいくつかを見せていただいたが
素人の自分がみても年輪が美しく
それ自体でも価値の感じられるものばかりだ
目利きの材木商が減るということは
作り手側も材料を見極める力をより必要とされる為
知識を付けて行かなくてはならない
職人が生き抜く上では
以前にも増してマルチな能力がもとめられているのだ
益田さん曰く実は材料を
注文をする際にはかなり緊張される作業とのこと
見た目からでは全く分からないが
いざ切り出してみると
中に大きな節や傷があったりと
全く材料として使えなかったといった
苦い経験もあったそうだ
自身で責任を負いながらの仕入れは
ある意味でギャンブル的な要素も大きい
業界全体がビジネスとして
円滑にまわっていなかれば
技があり本当に良いものを作りたくても
良い素材がないから作れない
何だかその構図に憤りさえ感じざるを得なかった
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【相棒と共に伝統を削り出す!】
お話をうかがって行くうちに
どうしても実際の技をみてみたくなり
鉋(かんな)で木材を削る実演をお願いさせていただくと
快く快諾してくださった
さっと木目を一見するや
一心不乱に削り出す益田さん
シュ〜ザッ
シュ〜ザッ
シュシュ〜ザッ
その様は力を入れて削り出すというよりは
丁寧に材料をなでるようにして作業は進む
その動きは規則正しく正確で無駄がない
白木の板が少しずつ少しずつ削られていく
削り出された木屑は向こう側が
透けて見えるくらい薄く
なんだか繊細で美しい
作業の途中で削る側の材料を確認することはない
長くやっていると鉋(かんな)に伝わってくる振動で
平に削りだされているのか否かがわかるというから驚きだ!
使いこまれた鉋(かんな)は
何とも言えない貫禄があり
まさに益田さんの今までの歴史が詰まっているようだ
道具にとっても使われ冥利につきるだろうな〜
としみじみと感じたのであった
作業を終えて振り向いた時の益田さんの顔は
職人というよりも
純粋に製作を楽しんでいる
少年のようなとても良い表情をされていて
こちらも嬉しくなった
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【良い製作の常備薬“楽しむこころ”】
取材を通して感じたことは
一見するに物腰やわらかい益田さんだが
圧倒的に自分の仕事に自信と誇りを持ちつつ
楽しんで仕事をしていることだ
常に良い仕事を
という飽くなき探究心は
一流アスリートにも通ずるストイックさ
良いものを作る為であれば
伝統工芸だけど伝統に縛られすぎずに
どんどん新たなアイディアを取り入れて行く貪欲さは
学ぶべき所が多分にあると感じた
そんな益田さんの作品は
ズレのない確かな仕事の裏に遊び心がつまっていた
「遊戯三昧」
兎にも角にも自分の仕事も人生も
真剣に楽しむことの大切を教えてくれた
職人が作り出す渾身の江戸指物
ぜひ人生の長い相棒となる
特別な一式と出会える機会となれば幸いです
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選択者:Rickey
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