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【取材レポ】やわらかな光が包む工房で作られる卵焼き器

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今回お邪魔したのは東京都足立区梅田に工場を構える
「中村銅器製作所」
周辺は小さな町工場が立ち並ぶ職人の町である。

社長は3代目の中村恵一さん
一見するに体格はごつくやや強面の職人だが、
時おり目元からこぼれる微笑からは
どことなく人柄の良さが滲み出ていることがうかがえる。

取材のお時間をいただいた日は、
どこか風に冷たさがはらみだした秋の昼下がり。
工場全体は柔らかな空気に包まれていた。
なんだか職人の工場というと厳しい親方がいて
お弟子さんが怒られていて…
のようなイメージを勝手に想像していたが、
全くと言ってそんな雰囲気ではなかった笑

【何はともあれやりがいは?】
まずは取材の冒頭に製品を作るにあたってのやりがいを尋ねてみると、
「そりゃ〜お客さんに卵焼き器を使ったら美味しくできた!
って言っていただいた時だね。」ときっぱりと即答。
製品は使う人の満足がなくては意味がない。
使い手にとってどう感じるのか?
と常に意識をすることが製品自体をより良くして行く上での
絶対条件なのだろうと妙に納得した。

自分の仕事のやりがいは?
と聞かれた時に即答できるかと自分に置き換えてみると…
「はっ」とさせられた一幕。
ひたむきに製品に向き合う職人の愚直さを感じた。

【深刻な後継者問題】
取材を進めて行く中で印象的だったエピソードがある。
中村さんの製品が出来上がるまでには、
全ての行程をご自身で行っているのではなく
3人の職人が携わって製品が完成しているとのことなのだが、
そのうちの溶接屋さんが最近廃業してしまったのだとか。
なかなか職人1筋では生計をたてて行くのは
難しい世の中であることを
メディア等を通して消費者である私自信も見聞きはしているものの、
実際にそのような現場に直面をし、改めてショックを受けた…
きっとそのようなことがそこかしこで起きているのだろう。
その話をしてくれた時の中村さんの寂しげな表情が今も忘れられない。

取材の当日はお1人しかお会いすることはできなかったが、
現在中村銅器製作所では2人の息子が父と共に職人道を歩んでいる。
実は彼らも一度職人の世界ではない社会にでた後、
ここに戻ってきて父と共に事業を営んでいる。

「息子さんと一緒に働けて嬉しいですか?」
「勿論!それは嬉しいよ!」
口数の決して多くなく静かな職人は、
一瞬優しい父親の顔もみせてくれた。

工場でのスタンスは
「失敗してもよい。まずはやってみなさい。そして目で盗め。」
実は中村さんの先代にあたる2代目(中村氏の父親)は、
相当厳しい職人でそれが嫌で息子達にはやさしいのだとか笑

昔と比べて今の世の中は経済的にも豊かになり
様々な職業選択が可能となった。
あえて跡取りとして厳しい職人の世界に身を置く若者は少ない。
産業の衰退の危機はきっとこうした小さな歪みから
大きな問題に発展しているのだろう。
『良いモノ』を残すには当たり前だけど『良い職人』の継承が必須。
今後は継承の仕組み作りも重要なのではないか?と感じた。

【芸術的な錫(すず)ひき技法】
作業行程で一番難しいのは錫(すず)ひきという作業とのこと。
今工場内では中村さんのみが担当できるまさに匠の技。
錫(すず)を器の内側にひくことで焦げ付きを防ぎ、
油の馴なじみもよくなる為、
調理をした際の美味しさにつながるのだそうだ。
さらに器の銅もかなりの厚みを持たせることで
しっかりと保温効果がのぞめ、
理想的な卵焼きをつくりあげる調理器が完成する。

取材の途中、「錫(すず)つけやってみましょうか?」と
中村さんが自ら実演を申し出てくださった。
コンロに火を灯すとなんだか場がピリッとした。
コンロでまずは器を熱し、
焼き付けののりをよくする為に液体に混ぜた亜鉛を手早く塗り込んだ後、
錫(すず)をひく。
亜鉛が火に引火して独特の緑の炎があがる。
何だかその炎からは子供の頃にみた
マジシャンがマジックをはじめる前のドキドキ感があった。

錫(すず)つけはまさにあっと言う間の出来事。
錫(すず)は一瞬にして熱せられた器の上で液体となり、
器面は職人の手により銀色に覆われて行く。
最後の仕上げに綿をつかって錫(すず)をひき上げるのだが、
すぐに綿が引火をしてしまうので風は大敵。
しめきった部屋内での作業が求められる。
窓はあけられずもちろん真夏であってもエアコンの使用は御法度。
想像しただけでも非常に過酷な環境だ。



【おかえりいってらっしゃい】

実は工場では「作ること」「修理すること」の2つの仕事がある。
ふっと作業場全体に目をやるとピカピカの新品の横にあった少し疲れた貫禄のある道具達。
中村さんは修理をこれから待つ3つの器を手に取ると
ひとつひとつの状態を一瞬で判断し、
そのコンディションを的確に説明してくれた。
「これは熱をかけすぎだね。」
「油をさせばなおるよ」
「これはまだ正直修理にはやいな〜。」などなど
名ドクターがクランケを正確に且つ迅速に診断するように。

製品を見る職人の表情はなんだか嫁いだ娘が
帰省した時の父親のようでもあった。

中村さん曰く「儲けを考えると修理もいいけど新しいものも買ってほしいなぁ」
な〜んてことを言っていたが僕には何だか嬉しそうに見えてしかたなかった。

余談でお話いただいたのだが、錫(すず)のひきなおし修理を行うと
実は製品としては0リセット。
ピカピカだけど0リセットなんだとか。
油がなじむにつれて使いやすさが増し道具は進化していく。
良いモノは長く大事にしっかりと手入れをしながら使い続けることも大切だ。

【芸術品ではなくあくまでも気軽につかえる実用品を目指す美学】
今回学んだ事は当たり前のことだが
「モノ」は「人」がいてできているということ。
出来上がるまでに技はもちろんのこと職人の人柄や想いから
最後的なアウトプットがあるということ。

製品にはきっと2つのストーリーがある。
1つ目のストーリは職人の作業現場で。
2つ目のストーリは我々消費者が手にした瞬間から使えなくなるまで。

モノは作り手の精神が宿る。
まるで凪の大海のような大きな心をもった職人が作る『銅卵焼き器』。
きっと気持ちが伝わる心のこもった製品です。
ぜひ機会があれば手にとっていただければと思います。

選択者:Rickey
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